月別アーカイブ: 2009年9月

『午前零時のサンドリヨン』カバーと価格が発表されました

午前零時のサンドリヨン

 小説のカバーと価格が決まりました。
 定価1,995円で、ぎりぎり二千円内。表紙はとてもキュートで可愛らしいものに仕上がりました。
 イラストを手掛けて下さったのは、シャープでありながらメルヘンな世界観を描かれる加藤木麻莉さんです。

 実際に本になったとき、どんなものに仕上がるのか、わたしにもまだわかりませんが、来月になってこの表紙を書店で見かけましたら、是非とも手にとってみて下さい。

 Amazonにも載ったようです。

 kuboonさんに脅迫されたので不本意ながらアフィリエイト付きリンクも乗せておくよ!

夏も終わり

マンゴーだよ

 たまには普通のエントリー。
 慌ただしく過ごしていたら、あっという間に夏が終わってしまいました。夜は少しずつ寒くなってきましたね。

 忙しいということは充実しているということで、今年の夏は自分にとって色々と刺激のある日々だったのかもしれません。そんな日々の中で得られたものを小説に纏められるといいんですけれどもね。

 小説といえば、去年書いた超ミニストーリーを発掘したので、掲載しておきました。2000文字の制限があったのかな。当時、周りで流行っていたので、既にあるショートを元に二日ほどで書き上げた記憶があります。タイトルを見ればわかる人はわかるはず。
 元にしたショートは『電子郵便』で、やはり文字数制限の難しさを痛感しました。

 文字数制限といえば、最近はTwitter小説が流行っていますね。あれも面白いので、幾つか書いています。

 最後にお知らせ。鮎川哲也賞の受賞作『午前零時のサンドリヨン』は、東京創元社さんより十月十日ごろに発売のようです。
 http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488024499

 まだカバーや価格は発表されていませんね。公表できるようになったらこちらでもお知らせします。

夏の終わりに届いたメール

また来年

 夏の終わり頃に届いたメールは、卑猥な内容の迷惑メールだった。
 どこかの広告業者にメアドを登録されてしまったらしい。以来、ほとんど使われていなかったメールボックスは、すぐにいかがわしい件名でいっぱいになった。最初の内はメールが届く度に煩わしい気持ちになったけれど、ケータイの電源を切っておけばいいんだと気付いて、対処はそれで終わった。どうせ使わないんだし。
 蒸し暑い朝にリビングへ出て行くと、テーブルの上にわたし宛の郵便物があることに気付いた。教材案内の広告だった。封筒の宛名を見詰めて蝉の声を耳にしていると、どこか落胆している自分に気が付いた。もう、夏が終わる。わたしはこの季節が好きではなかった。だから、生まれた季節に因んで付けられた自分の名前を見るたびに、むず痒くなる。ああ、また、なにもない空っぽの夏が終わっていくんだなって。
 夏休みの間は、ほとんど外出することがなかった。眩しい陽射しの中へ、わたしと一緒に出掛けようとしてくれる奇特な人なんて誰もいない。
 高校に入学してすぐ、女子達は幾つかの派閥を形成する。わたしはお情けでその仲間に入れてもらっていたけれど、この夏休みが始まる前にある女の子にこう言われた。あの子ってさぁ、なんでいつもあんな暗い顔してんの? 見てるこっちまで暗いのが移るってーの。ウザくない?
 そんなの、言われなくても知ってる。社交的な性格じゃないから、わたしのアドレス帳に登録されてる中学の友人は、ほんの数人だけだ。高校に入ってみんなバラバラになると、すぐに自然と連絡を取らなくなってしまった。だからケータイの電源を切っておいても、別に支障はなかった。それが、ほんの少し悲しい。
 わたしも彼女達のように気軽に友達を作れたらいいのに。あんなふうにケータイをかざして、赤外線でピっとやって、それだけで友達登録完了。ホントに、それだけで誰かと友達になれればいいのに。
 誰かの誕生日には、いたたまれない気分になる。朝の教室で、その子の周囲を大勢の友達が囲んでいる。わたしがそんなふうに祝福されることなんて絶対にない。だって、お正月に生まれた子と同じようなもので、わたしの誕生日には学校は必ず休みなんだから。翌日の学校に期待しても、みんなはこれから始まる新しい日々に浮かれて、わたしの生まれた日なんて忘れてる。毎年そうだった。
 ふと、ユカのことを思い出した。中学のとき、いちばん親しくしてくれた友達がユカだった。けれど高校に入ってから、彼女から来るメールはぴたりとやんでしまった。久し振りにケータイの電源を入れてみると、メールボックスはいっぺんに受信した広告メールでいっぱいになった。ユカとやりとりした昔のメールも、まるで洗い流されるみたいに記録から消えてしまった。メアドを変えよう、と漸くそのときに思い至った。ユカに、メアドが変わったって事を教えれば、それをきっかけにまたメール交換が始まるかもしれない。
 ユカへのメールの返事はすぐにきた。宛先不明、という内容だった。
 暫くの間、途方に暮れていた。少し、遅かったのかもしれない。もっと前から、積極的に自分からメールすればよかったのに。どうしてそれができなかったのだろう。
 赤外線で、ピっとするみたいに。メールを打って、親指でボタンを押すだけで思いは伝わるのに。
 それくらい簡単なことが、どうしてできなかったんだろう。
 答えはわかっている。単に、わたしがひどく臆病なだけだった。だからわたしは、いつも一人なんだ。
 じっと、ケータイに映るユカの電話番号を見ていた。迷惑だと思われたらどうしよう。電話番号も変わっていたらどうしよう。不安が渦巻いて、けれど、彼女ともう話ができないかもしれないと思うと、それは凄くいやだと思えた。凄く、いやだ。親指が、ボタンを押していた。
 電話は、すぐに繋がった。
『もしもし……あの、ナツだけど』
『うわぁー、ナツ? 久し振り! よかったぁ!』
 電話口から、元気な声が聴こえてきた。ユカはケータイを水没させて、友達のアドレスを全ておじゃんにして困っていた、ということをわたしに話した。呆気にとられている内に、メアドを交換し、今度の日曜日に二人で買い物に行こうと話が纏まった。
 部屋の鏡台に顔を向けると、泣いているのか、笑っているのか、奇妙な顔をした自分がいた。明日で夏休みは終わりだった。
 その夜、いきなりケータイが鳴った。飛び起きて時計を見ると、零時丁度だった。ユカからのデコメだった。
『ハッピーバースデイ、ナツ! 間に合ってよかった!』
 とたん、嬉しさが込み上げて、デコレーションされた画面がじわりと滲んだ。
 八月三十一日が、わたしの誕生日。明日からは新学期だ。
 赤外線で、ピっとするみたいに。
 ほんの少しの行動で、なにか変わることがあるんだとしたら。少しずつでいい、手を伸ばしていこう。
 夏の終わりに届いたメールを胸に、わたしは瞼を閉ざした。